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東京地方裁判所 昭和23年(ワ)4905号 判決

原告 宗像善敬

被告 青島佐喜子 外二名

一、主  文

原告は東京都豊島区巣鴨六丁目千二百十番地宅地八十坪一合六才について賃貸人を被告栃木商事株式会社賃借人を原告として賃料は一箇月一坪金二十二円毎月末日持参払、存続期間は昭和三十一年九月十四日までとする賃貸借上の借地権を有することを確認する。

被告青島佐喜子は原告に対し右地上にある木造柿板葺平家建一棟建坪十二坪を収去してその敷地五十坪(右宅地八十坪一合六才の内これに道路から向つて左側の間口五間奥行十間の部分)を明け渡すべし。

被告吉沢富子は右建物から退去すべし。

訴訟費用は被告等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文と同趣旨の判決並に給付請求の部分について担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、主文第一項記載の宅地八十坪一合六才は被告栃木商事株式会社(以下被告会社という)の所有であるが、昭和八年六月六日訴外菊地誠一はその内五十二坪七勺七才を、訴外服部寿恵は同二十八坪二勺九才をいずれも普通建物所有の目的で存続期間は二十年の約束で被告会社から賃借し、その後菊地はその借地権を訴外西田能通に、服部、西田の両名はその各自の借地権を訴外金子よ志ゑに、いずれも被告会社の承諾を得て譲渡し、金子は右地上に三棟の建物を所有していた。原告の父宗像善雄は昭和十七年十一月一日金子から右建物と共にその敷地の借地権を被告会社の承諾を得て譲り受け右土地の借地権者となつたが、昭和二十年二月十九日死亡したので、原告がその遺産を相続し右の建物所有権と借地権を承継取得した。ところで、同建物は同年四月十四日戦災によつて焼失したが、すると、被告会社はこれを奇貨とし原告の右借地権を否認し、一方、被告青島は同地上に木造柿板葺平家建一棟建物十二坪を所有して被告吉沢と共にこれに居住しその敷地として右土地の内五十坪(道路からこの土地に向つて左側の間口五間奥行十間の部分)を占有して原告の借地権を侵害中であるから、ここに、被告会社に対し原告の右借地権の確認を、被告青島に対し右建物の収去とその敷地の明渡を、被告吉沢に対し同建物からの退去を求めるため本訴に及んだ次第であると述べ、なお宗像善雄が本件宅地の賃借人となつた当時の地代は一箇月四十円毎月末日払ということであつたが、現在は統制額に従い一箇月一坪二十二円に値上されており、借地権の存続期間は本来は昭和八年六月六日から二十年の昭和二十八年六月六日までであるが、戦時罹災土地物件令(以下物件令という)による法定の停止期間を控除した上罹災都市借地借家臨時処理法(以下処理法という)の施行された昭和二十一年九月十五日当時残存期間が十年に満たないから同法によりこれを十年とし、昭和三十一年九月十四日(原告が陳述した昭和二十五年五月二十四日附準備書面には十五日と記載してあるが、それは期間の計算について考え違をしたことによるものと認める)までとなつた。また、原告が相続により父善雄から承継取得した前記三棟の罹災建物には、その焼失当時善雄の妻で原告の母である宗像正子名義で所有権取得登記があつたものであると陳述し被告青島及び吉沢の主張に対し、仮に同人等がその主張のような理由によつてその建物敷地を使用しているとしても、原告は罹災建物の滅失当時から引き続きその敷地に借地権を有するものであるから物件令及び処理法によつてその借地権を同人等に対抗し得るものであると答えた。<立証省略>

被告青島、吉沢訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張の事実中本件宅地が被告会社の所有であること、右地上に原告主張のように曾つて三棟の建物があり、これが戦災によつて焼失したこと、当時その建物について宗像正子名義の所有権取得登記があつたこと、被告青島が本件宅地上に原告主張の建物を所有して被告吉沢と共に居住しその敷地として原告主張の五十坪を使用していること及び右土地の統制賃料が一箇月一坪二十二円であることは認めるが、その他の事実は知らない。本件宅地は訴外石川津子が昭和二十年十二月十七日被告会社から普通建物所有の目的で賃料は一箇月四十円、毎月末日払、存続期間は二十年の約束で更地のままで賃借し、同地上に昭和二十三年五月二十日から原告主張の建物を建築所有していたものである。しかして、被告青島は同年九月九日同訴外人から右建物を譲り受けると共にその敷地五十坪の借地権をも被告会社の承諾を得て譲り受けたものであるから、右被告両名の右敷地の使用は適法であり原告の本訴請求は何等そのいわれのないものであると述べた。<立証省略>

被告会社訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告主張の事実中、本件宅地が被告会社の所有であること及び訴外金子よ志ゑが原告主張の経過で本件土地の借地権を取得し同地上に原告主張の三棟の建物を所有していたこと原告の父宗像善雄が昭和十七年十一月一日金子よ志ゑから右三棟の建物を譲り受けたこと、右善雄が昭和二十年二月十九日死亡し原告がその遺産相続をして右建物の所有者となつたことは認めるが、被告会社が原告主張のような借地権の譲渡を承諾したことは否認する。その他の事実は知らないと述べた。<立証省略>

三、理  由

本件宅地が被告会社の所有であつて、同被告が昭和八年六月六日その内五十二坪七勺七才を訴外菊地誠一に、同二十八坪二勺九才を訴外服部寿恵にいずれも普通建物所有の目的で存続期間を二十年として賃貸したこと、その後菊地が右賃貸借上の借地権を訴外西田能通に、更に服部、西田の両名がその各自の借地権を訴外金子よ志ゑにいずれも被告会社の承諾を得て譲渡したこと、金子が本件宅地の借地権者となつてからその地上に三棟の建物を所有していたこと原告の父宗像善雄が昭和十七年十一月一日金子から右三棟の建物を譲り受けてその所有者となつたこと及び右善雄が昭和二十年二月十九日死亡し原告が遺産相続によつて右建物の所有者となつたことは被告会社の自白するところである。被告青島、吉沢の両名は右の事実中本件宅地が被告会社の所有である点だけを認め、その他はこれを争つているが、その争のある事実は被告会社がこれを自白している事実と成立に争のない甲第一号証並に証人西祐雄、宗像正子の各証言とを綜合してこれを認めるに充分である。

よつて前記三棟の建物の譲渡と共にその敷地であつた本件宅地に対する借地権の譲渡が行われこれについて被告会社の承諾があつたか否かについて按ずるに、前示西、宗像の各証言と右宗像の証言によつて成立を認め得る甲第二号証の一、二とを綜合して考えると、宗像善雄は右建物と共に金子よ志ゑからその敷地に対する借地権を譲り受け、当時これについて被告会社から本件土地の管理を委任されていた訴外塚田定吉の承諾を得、爾来自ら地代の支払をするに至つたことが認められるから、右善雄の譲受借地権、すなわち、原告の本件借地権はこれを被告会社に対抗し得るものといわなければならない。

さて、前記三棟の建物が昭和二十年四月十四日戦災によつて焼失したことは前示宗像の証言によつて明かであるが、処理法第十一条は、同法施行の際罹災建物の敷地にある借地権の存続期間が十年未満のときはこれを十年とすることを定めているから、当初の契約によつて定められた昭和八年六月六日から二十年という存続期間が物件令第三条、同附則第三項の規定による停止期間(昭和二十年七月十二日から昭和二十一年九月十四日まで)を考慮してもなお処理法施行の日の昭和二十一年九月十五日から十年を待たないで満了すべきものである以上、本件借地権は前同日から(初日算入)十年の昭和三十一年九月十四日まで存続するものというべきである。次に地代について見るに、証人宗像正子の証言によると、宗像善雄が本件借地権を譲り受けた当時は一箇月四十円毎月末日払の約束となつていたことが認められる。しかして、その後どのように値上されたかを徴すべき証拠はないが、原告がその統制額までの値上を認める以上これを否定すべき合理的根拠はないから、被告青島、吉沢両名の自白に徴してその統制額が一箇月一坪二十二円であることが推認できる本件では現在の地代は結局右統制額まで値上されているものと認めるべきである。

よつて更に進んで原告は本件借地権に基いて被告青島、吉沢の両名に対し妨害排除の請求をし得るものであるか否かについて按ずるに、前記三棟の罹災建物について宗像善雄の妻で原告の母である宗像正子名義の所有権取得登記のあつたことは右被告両名の認めて争わないところである。されば、右建物の実体上の所有権が先に認定したようにその罹災当時原告に帰属していた以上、原告は母親名義の登記で右建物を所有していたものと認める外はないが、借地権の目的たる地上に借地権者が母親名義の登記のある建物を所有するような場合には、その借地権は、これによつて、借地権者が自己名義の登記のある建物を所有する場合と同様に公示されているものと解するを相当とするから、原告の本件借地権は前記三棟の建物が罹災するまでは建物保護に関する法律第一条第一項の規定の趣旨に従いまた建物の罹災後は処理法第十条の規定によつてそれぞれ保護されるものといわなければならない。そうすると、原告の本件借地権が昭和二十一年七月一日から五年以内である同年十二月十一日新に本件宅地について設定された借地権(賃借権)を譲り受けたと主張する被告青島及び本件宅地の占有について格別の権原のあることを主張も立証もしない被告吉沢に対抗し得るものであることは極めて明白であるが、処理法の精神は、かかる借地権には物権に準じて妨害排除請求権を認めるにあるものと解するを相当とするから、被告青島が本件宅地の内原告主張の部分をその上にその主張のような建物を所有して占有し、また、被告吉沢が同建物に居住しその敷地を占有していることを認める以上、原告に対し被告青島は右建物を収去してその敷地を明け渡し、また、被告吉沢はその敷地明渡のために同建物から退去すべき義務を負つているものと認める外はない。

以上説明の通りであるから、被告会社との関係で先に認定した借地権の確認を求め、また、被告青島、吉沢の両名に対しそれぞれ右認定の義務の履行を求める原告の本訴請求を総て正当として認容し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項の各規定をそれぞれ適用して主文の通り判決する。

なお、原告の仮執行の宣言の申立については、本件はその宣言を附することが相当でないと認められるからこれを却下する。

(裁判官 田中盈)

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